日本のセルフストレージ業界の課題と、投資家を惹きつける魅力‐いちご株式会社およびストレージプラス株式会社 Dan Morisaku氏へのインタビュー
UL: では、はじめにご自身について、そして御社について教えてください。
私は、日本と米国でストラクチャード・ファイナンスとコーポレート・ファイナンスの経験を積んできました。大学院のプログラムを修了後、すぐにワシントンDCにある日系銀行でアソシエイトとして金融業界でのキャリアをスタートしました。金融の分野で20年近く仕事を続け、2017年にいちご株式会社に入社しました。当社は、サステナブルインフラの会社です。不動産開発業者として、オフィスやホテル、小売店、居住スペースなど、さまざまな不動産資産を所有、運営しています。また、太陽光や風力などの再生可能エネルギー発電所への投資も行っています。2017年夏には、ストレージプラス社を買収しました。当時はわずか16店舗で構成されていましたが、この5年間で事業規模を2倍以上に拡大しました。現在では35店舗、4,500ユニットを運営しており、北海道に4カ所、福岡に1カ所、東京と金沢に数カ所と、全国に展開しています。1店舗あたりの平均ユニット数は約130件で、全国平均よりは少し多いですが、外国の成熟した市場と比較するとかなり小さい規模です。
UL: ストレージプラスと他社との違いはどういった点ですか?
当社は、国内市場において、同業他社と比べても質の高いセルフストレージを運営していると自負しています。日本の多くの店舗同様、無人ですが、安全性には特に配慮しており、お客様が夜中でも安心してご利用いただけるようにしています。海外の方がよく驚かれるのは、施設がとてもきれいだということです。床はカーペットを敷き、常に清潔に保っています。海外のセルフストレージは、床も壁もむき出しのインダストリアルな感じですからね。これは、日本の文化やメンタリティに起因するものです。日本のお客さまは、店舗に気を配り、敬意を払ってくださいます。収入面においては、中堅以上のお客様をターゲットにしているので、サービスや設備等、一定の期待に応えなければなりません。ただ、それは同時に、企業として信用分析や慎重な意思決定に関してより保守的であると言えます。
UL: セルフストレージの自動化についてですが、日本では無人店舗が多く、既にかなり高度な自動化で運用されていると思うのですが、ストレージプラス社では、どのような技術を使っているのですか?
無人運営で最も大きな意味を持つのが、リモートアクセスコントロールですね。お客様は、契約前に訪問の予約を取り、ユニットを見ることができます。現地から当社にお電話いただき、遠隔でエントランスやエレベーター、フロアへのアクセスを開放することができます。ユニット自体に物理的な鍵があることに変わりはありません。スタッフが案内することなく、すべてセルフガイド形式になっています。ただし、新しい店舗をオープンするときは、すべてがスムーズに動き出すまで、しばらくの間スタッフが現地でお客様をお迎えすることも多いです。
もちろん改善の余地はあります。日本では、まだ多くの店舗がデジタル化されていません。海外ではお客様がスマートフォンで開錠するのが当たり前になっています。日本の店舗で無人が多いのは、運営費の関係もあるのです。新型コロナウイルスが世界的に流行すると、海外では皆、非接触型運営で対応していましたが、無人ではありませんでした。振り返ってみると、安全性、公衆衛生、利便性の面で、日本の運営は優れていることがわかります。日本は一般的に治安が良いので、セキュリティ対策も少なくて済みます。例えば、フロアに金属製の棚を設置して、お客様に使っていただいたり、お貸ししたりしています。アメリカやイギリスからお客さまをお迎えしたとき、この棚が盗まれたり壊されたりすることがないことに驚かれていました。
UL: セルフストレージの顧客は、B2CとB2Bのどちらが多いですか?
顧客層は、他社と比べてもあまり変わらないと思います。通常は、B2Bが3割、B2Cが7割という割合ですが、場所によって異なります。東京都心部にある当社店舗では、お客様の半分以上が近くに拠点を持つ中小企業やオフィスです。ただ、全国的に見たら30:70が平均ですね。
UL: 日本はまだ発展途上で、セルフストレージの市場シェアも低いですが、日本でセルフストレージが直面している主な課題は何だと思われますか?
地価が高いので、大規模な施設のオープンや建設、改築は非常に難しいですね。特に大都市では、この課題が顕著です。日本はここ20〜30年間、強いデフレ環境にあります。早く改善されることを願っていますが、更に追い打ちをかけているのが、この半年での物価上昇です。今後、セルフストレージの値上げも真剣に考えなければいけなくなるでしょう。人口も課題です。東京と大阪を除いて、日本は他のアジア諸国と違って人口が減少しています。しかし、良い面もあります。居住空間は依然として限られているので、市場の成長ポテンシャルは十分にあると思います。
最後に大きな課題として、「意識改革」があります。新型コロナウイルスの影響で、多くの人が在宅勤務を始めたり、都心から移転したりしましたが、転勤や転居があると、セルフストレージは必ず恩恵を受けます。現在、他の事業者や日本セルフストレージ協会とも連携して、認知度の問題に取り組んでいるところです。
UL: 諸外国のベストプラクティスを日本のセルフストレージで実践するとしたら、何を挙げますか?
もっと広々とした大規模な店舗を建設できる土地があれば理想的ですが、不動産投資の世界に身を置くには、収益管理が何よりも重要です。日本の事業者は、顧客に割引を提供することで競争しがちです。空いているユニットを早く埋めるための手段としては有効かもしれませんが、業界を助けることにはなりません。価格も上げにくくなります。日本の価格分析の可能性に敏感になって、もっと戦略的に取り組む事業者が増えることを期待しています。また、業界はもっと制度化される必要があります。いまだ中小企業や家族経営の事業者が多数を占めています。それ自体は何の問題もないのですが、規模の経済性や技術の導入という点から見ると、ある程度の合併や統合は、日本における業界の成長に大きく貢献するでしょう。
UL: 日本のセルフストレージ業界は、今後どのようになっていくと思われますか?
ありがたいことに、業界全体が脅かされるようなことはないと思います。セルフストレージは、他の資産クラスと比較して、非常にディフェンシブで不況に強いと言われています。多くの外国人投資家はこの市場に参入したがっており、これはチャンスと言えるかもしれません。このセクターの大半は、国内の投資家向けなのですが、日本以外のプレーヤーが参入してくれば、面白いことになるかもしれません。
あまり知られていないことですが、セルフストレージはESG(環境、社会、ガバナンス)的な意味合いが非常に強いのです。調査によると、排出量は他の資産クラスよりも86%少ないのです。エネルギー消費量は84%、水消費量は92%、廃棄物発生量は82%少ないです。これは素晴らしい実績ですが、残念ながら日本では、ESGのロールモデルとして自らを売り込むほどの規模がないため、このことについて語る人はあまりいません 。屋上にソーラーパネルを設置したり、電球をLEDに換えたりしている施設もあります。しかし、その動機は運用コストの削減であり、必ずしも低排出ガスやESGが持つ本来のポテンシャルを活用したものではありません。 (セルフストレージにおけるエネルギーマネジメントの改善についての資料はこちらから)
UL: エコロジーに敏感な投資家を惹きつけるために、このようなエコロジーの利点がマーケティング資料の一面に掲載されていると思うのですが、いかがでしょうか?なぜ、この話題がもっと大きく取り上げられないとお考えですか?
素晴らしい質問をありがとうございます。日本の業界に関わる企業や投資家のほとんどが中小企業です。このセクターが責任ある投資家または事業者であることの意義を十分に理解し、そのように自らを投影するには時間がかかると思われます。例えば、シンガポールの業界は全体的にESGの話題に敏感で、特に企業のメッセージとして話題に上がることが多いです。最近出席した業界のカンファレンスでは、できる限りこの問題を提唱するようにしています。しかし、日本はまだまだ海外市場を追いついていないのが現状です。
UL: 最後に、2023年以降のセルフストレージ事業の計画について教えてください。
我々は不動産投資家なので、セルフストレージの資産に付加価値を付けられるよう、その専門知識を活用していきたいと思っています。